『小説、トランス脂肪酸』その1
この小説の主人公は、鍋屋のおやじ67才。
この男は昔から発明が妙に好きで、髪が生える石鹸とか、髪が生えるガラス棒とか、まあー、胡散臭い物をたくさんつくって来た。
それでも本人大真面目、何とか髪を生やしてやるんだと、今でもかなり一生懸命にやっている。
髪を生やす方は、どうにもお金にならないので、
20年ほど前から「共振作用」とか云うものを使った「油を長くもたせる技術」を開発して、その技術をレンタルして今に至るが、
最近お客さんから「アクリルアミド、何とかなりませんか」と言われたそうだ。
「アクリルアミド」って何だい。
元より学のない鍋屋のおやじ、「アクリルアミド」何だか知らない。後で調べてみると厚生労働省が「おそらく発がん性がある物質」と云っているもので、どうもポテトを料理しているときにできてしまうらしい。
「アクリルアミドが何とかなると、どうなるのでしょうか?」
とその企業の担当者に聞くと、
「勿論、世界中の企業が使うでしょうね。」との事。
鍋屋のおやじの発明家魂に火が付いた。
「これ、俺が何とかしてやる」、
バカだね、世界中の学者がやってできないことを、あんたができる分けがないじゃないか。
でも、でもこのおやじ、決めると始めてしまう癖があって、今回も始めてしまった。
あら大変だ。また、始めちまったよ。
彼のカンでは、
「トランス脂肪酸が関係しているハズ」
と云う。
なぜかと云うと、
ポテトを油で揚げて発がん性物質が出来るのであれば、人類はとうに死滅している。神様はそんなことするわけがない、それは人間がつくったものに関係している、考えられるのはトランス脂肪酸、それも「人工トランス脂肪酸」
と云い始めた。
鍋屋のおやじ、最近まともに勉強していると聞いたが、なかなか面白いことを言い始めるので、しばらく聞いてやることにした。
彼の話によるとこうだ。
トランス脂肪酸は、「自然由来のトランス脂肪酸」と、人間が水素を吹き込んで創った「人工トランス脂肪酸」に分類される。
おいおい、ちょっと待てよ、そんなことだれが云ったんだい。
「俺が言った」
と鍋屋のおやじ。
そんなこと、勝手に言ったら、偉い先生に怒られるんじゃないかい?
「怒られたっていいよ、俺に何言ったって、何にも起こらない。それより誰も言わないから、言うだけの事、これはとても とても大事な事だ」
とおやじ。
じゃわかった、話し続けて。
「自然由来のトランス脂肪酸」は、体内酵素で分解するので問題ないが、
「人工トランス脂肪酸」は自然物ではないので、体内酵素で分解できず体内に長く残り代謝を遅らせ、様々な病の原因となるとみられることから、米国などでは国を挙げで使わない方針を公表している。
今の話は、下の表のとおり。
人工トランス脂肪酸 ➡ 体内酵素で分解しない ➡ これが問題。
・・・・なるほど。
では、「自然由来のトランス脂肪酸」と「人工トランス脂肪酸」ではどこが違うの。
ここだよ。
二重結合の部分が「=」と「×」になっているだろ、自然由来の場合は「=」 人工トランス脂肪酸の場合は「×」だ。
じゃさぁー、なんでクロスになるのよ。
それはだなー
人工トランス脂肪酸は、シス構造の油から創るのだが、
シス構造とはサラダ油のような常温で液状の油、
これを不飽和脂肪酸と云っているが、
これに水素を吹き込むと油が固まる現象が200年ほど前に発見された。
当時この液状の油にバターを溶かして水素添加で固めたら、バターみたくなった、
これがマーガリンの始まりだよ。
シス構造の油は、二重結合の下に二つ空いている場所があって、
水素を吹き込むとその場所に水素が入り込む、
そうなるとプラスの水素同士が反発して、二重結合をクロスさせる。
これがクロス二重結合だ。
シス構造の油は、だいたいがフラフラしている。
だから液体なんだが、水素を入れるとしっかりと固まる。
これが、液状の油が固まる原理。
こんなこと誰から聞いたのさ。
「不飽和脂肪酸の油」に水素を添加すると
固まるのは何故?
と、いろいろ聞いたり調べたが、どこにも書いてないし、誰も教えてくれなかった。
つまり分からないんだよ。
世界中の人が誰も知らないんだ。
そして学説もない事にも気が付いた。
この辺のことは、200年もほったらかし状態だったんだな、これが。
それで自分で考えるしかなかったと言う分け。
悪い頭でずいぶんと考えたが、
考えている内に、夢でシス構造の油に水素がくついて、
それが「くるっとひねられる様子」を見た。
あ、これだと思ったね。
たぶん神様が俺に見せてくれたんだと思う。
ほんとありがたかった。
ついでに言っておくけど、
水素添加してつくった「人工トランス脂肪酸」は、
簡単に元のシス構造に戻せる。
添加した外周水素を外せば、良いんだ。
それだけの事。
その方法は油を分子・原子レベルで微弱に振動させる
「共振作用」を使えばよい。
もうこれは、うちの鍋では使っているけどね。
長くなったんで、今日はこの辺にしておきます。
この話は、これからまだまだ続きます。
次は、人工トランス脂肪酸とアクリルアミドや終末糖化産物・AGEの話をします。
長年、鍋屋のおやじと小バカにしていたが、なんか鍋屋の先生みたいな感じになって来た。AGEと云えばシワの原因として知られているが、それがトランス脂肪酸と関係あるのか、是非聞いてみたいところだね。
続く